2007.06.26

防災ヘリ活用、来月導入

防災ヘリ活用、来月導入

7月からドクターヘリとして併用される県の防災ヘリ「あらかわ2」号(川島町の県防災航空センターで)

県は、7月から遠隔地の救急医療体制を強化するため、ドクターヘリを導入する。

上田知事が県議会で表明したのは、昨年6月。伏線の一つはその2か月前、吉田町(現秩父市)に住む自営業柴田浩(仮名)(50)から、直接要望を受けたことだった。

「ドクターヘリを導入してください。息子の悲劇がもう二度と、起きないように」――。

1996年2月の夕刻。町内の県道で、当時20歳の孝(仮名)の乗用車が、ダンプカーと正面衝突した。

前夜はがんとの闘いの末、逝った柴田の兄(当時45歳)の通夜だった。子供がなく、孝を我が子のようにかわいがった兄。孝は一睡もせずに最後の別れを惜しんでいた。事故は弔問客を駅まで送った後に起きた。

「迷惑かけてすみません」。隣町の病院に運ばれた孝のもとに駆けつけた知人(50)は、孝がこう語ったことを今も覚えている。

しかし、この病院では処置ができず、孝は車で1時間以上かかる毛呂山町の埼玉医大まで搬送されることになった。

当時はバイパス道路がなかった。峠やカーブを縫って走る救急車にじれったさを感じても、付き添いの柴田に出来ることは「頑張れ」と息子に声をかけることだけだった。

到着後、直ちに心臓の電気ショックが始まったが、約30分後、医師からは「だめでした」と宣告。駆けつけた妻(51)は倒れ込んだ。

「救急車で息子は『おやじ』と声をかけてくれた。もっと早く大きな病院についていたら……」

当時を振り返る柴田の目に、今も涙がにじむ。

県のドクターヘリは、川島町の県防災航空センターの防災ヘリを活用し、川越市の埼玉医大総合医療センターの医師が同乗する体制をとる。

山梨県境まで約15分。搬送時間が大幅に短縮される。県などは「早い段階から医師が治療を始められる」(県医療整備課)と、救命率向上に期待をかける。

ただ、すでにドクターヘリを導入している他県では、「防災ヘリをドクターヘリとして運用するのは限界がある」との声がある。

ドクターヘリ専用機の場合、119番通報から医師が患者に接触するまでの時間は専用機の平均25分(2002年度調査)。これに対し、防災ヘリを併用した広島県の試行事業では、平均43分かかったとの報告がある。

専用機の搬送件数は年間300回以上に上るが、県の想定は年50回程度だ。

県が併用体制をとるのは、既存のヘリの活用で早期導入をはかることなどが理由だ。今後、専用機を導入するかどうか、県は明確な方針を示していない。

柴田は「違いはよく分からないが、1人でも多くの命を救えるようにしてほしい」と語る。

その期待に応えることが出来るか。柔軟な運航体制の構築が求められる。(敬称略)


【ドクターヘリ】 医師や看護師が同乗し、重症救急患者を搬送するヘリコプター。早い段階から医療処置ができ、救命率向上に加え、後遺症の軽減にも効果があるとされる。専用機の場合、国の補助金が支出されることもあり、北海道、千葉など8道県は専用機を導入している。