2007.06.23

揺らぐ命綱 救急の現場から<4>疲弊 ゆとり生み出すには? 西日本新聞

『多くの救急病院で看護師は2交代制か3交代制で勤務するのに対し、医師の交代制を敷くところは少ない。
昼間に勤務した医師が翌日まで残って当直をするか、アルバイト医師が夜間の当直をする病院が大半・・・この過酷な勤務体制を 解決するために都市部に必ずいる多数の アルバイト医を 当直医派遣ヘリで 搬送するシステムが事業化されます』


慢性的な医師不足のなか、多忙ななかにもゆとりを生み出すにはどうすればいいのだろう。(2007年6月23日西日本新聞 )

産科救急に対応する福岡大学病院総合周産期母子医療センターを運営する産婦人科医局は今月から、当直明けの医師は午前中で帰宅するよう申し合わせている。だが実態はなかなか伴わない。

医師からこんな声が聞こえる。「医者の数は増えないのに、当直明けに帰れば、人手が足りずに事故を招きかねない」

福岡県内の救命救急センターで働く二十代後半の医師は、月に四、五回ある当直の日は午前七時に出勤して一夜を明かし翌日は夜まで働く。ぶっ通しで三十六時間。

それでも給与は手取りで二十万円に満たない。月五回は別の病院で当直のアルバイトをしている。そんな先輩の姿に研修医(25)は「僕なら三カ月も勤まりませんよ」と自嘲(じちょう)した。救急医療を志す若い医師は、こうして減っていく。

疲弊する医師たち。そこに目を向けることも、医療の安全には欠かせない。

 ▼医師の勤務態勢

多くの救急病院で看護師は2交代制か3交代制で勤務するのに対し、医師の交代制を敷くところは少ない。昼間に勤務した医師が翌日まで残って当直をするか、アルバイト医師が夜間の当直をする病院が大半という。厚生労働省は2002年、医療機関の休日・夜間勤務について、病室巡回など軽度または短時間の業務に限定▽泊まり勤務は週1回が限度▽夜間に十分な睡眠時間を確保するなどの通達を出した。これが十分に守られない場合は、交代制の導入などを検討するよう求めている。

(悲惨な状況の報道記事)

揺らぐ命綱 救急の現場から<4>疲弊 ゆとり生み出すには?連載
2007.06.23西日本新聞  
  

2006年一月二日。熊本市の東(ひがし)和男さん(34)は、四一度の高熱を出して全身をがたがたと震わせる三歳の長女美来(みく)ちゃんに、これはただ事ではないと直感した。父と娘を乗せた救急車は熊本地域医療センター(熊本市)に滑り込んだ。

ところが、通常でも込み合う三が日だったことに加えて、インフルエンザが流行していた。患者はあふれ返り、医師、看護師は「ちょっと待ってください」と言い残しては走り回っていた。

診察室に入っても、診察はすぐには始まらなかった。娘の目がだんだんうつろになっていく。うわ言まで言いだした。

「まだかーっ」

東さんの怒鳴り声で医師が駆けつけ、処置を始めた。コンピューター断層撮影装置(CT)に横たわり「パパー」と呼んだのが、美来ちゃんの最後の肉声になるなど思いもしなかった。

美来ちゃんはインフルエンザ脳症を引き起こしていた。すぐ熊本大学病院へ転送されたが、二月二十八日、息を引き取った。

意識が戻らない美来ちゃんに二カ月寄り添った東さんは、看病の合間に医療センターへ出向き、後藤善隆小児科部長らに幾度も詰め寄った。

「なぜもっと早く処置をしてくれなかったのか」「患者が多いと予測して医者を増やすなどできなかったのか」

こうしたやりとりだけが原因ではなかったが、後藤医師はこのころ、周りから見れば燃え尽きたように疲れ果てていた。

   ■   ■

東さんは今思うと乱暴な言動だったと反省している。ただでさえ少なくなっている小児科医の多忙を招く原因は、ちょっとしたことで子どもを救急病院に連れてくる親にも、医療相談電話の周知など十分な対策をとっていない行政にもあることは分かった。

ただ、「忙しいから処置できない」という状態をつくることは、二度としてほしくない。後藤医師とはその後、同じような悲劇が起きないよう、率直に意見を交わせる間柄になった。

東さんがセンターに提言した、患者の重症度を判断して治療の優先順位をつける看護師「トリアージナース」の待合室配置を実現すべく、センターの看護師は今月から研修を始めている。