2007.06.21

お産SOS(52)/第10部=打開の糸口<4> -河北新報

長崎県病院事業管理者 矢野右人さん(70)/地域医療を維持していくには派遣医師に後ろ盾万全

大小55の離島に約17万人が暮らす長崎県。へき地の典型といえる離島の医療は、独自の医師養成制度で支えられてきた。

医学生に授業料や生活費を支給し、その倍の期間、地域に勤務する。制度は1970年に始まった。地方の医師養成を目指す自治医大が開学する2年前のこと。全国でも先駆的な事業だった。

「40年近い地道な取り組みが今、実っている。行政が動かせる医師がいなければ、いくら地域医療に予算を出したとしてもどうにもならない。1人辞めただけでオロオロしてしまう」

長崎県離島医療圏組合が運営する9病院の常勤医104人のうち、県が人事権を持つ「養成医」は自治医大出身者を含め38人。予定では、今後8年間で新たに43人が地域医療の現場に入る。

養成医は大学卒業後、「親元病院」と呼ばれる国立病院機構長崎医療センター(大村市)で2年間の初期研修を受け、離島に派遣される。再研修、再々研修の制度もあり、養成医同士や、医療センターのスタッフとコミュニケーションを築けるように配慮されている。

「医師はマイスター(職人)の世界。面識がないと本当の情報交換はできない。何かあったとき、電話一本で相談できる関係を親元病院でつくる。仲間意識を持たせている」

「最近、各県で奨学金を使った医師養成を始めたが、養成医の受け皿づくりが不可欠だ。長崎は離島医療圏組合と医療センター。卒後教育、人事配置のよりどころがないと、養成医は安心して仕事に取り組めない」

離島で対処できない高度医療が必要な場合は、ヘリコプターで本土に搬送する。海上自衛隊の協力に加え、昨年、医療センターに県のドクターヘリを配備した。

「ヘリ出動は今年、300回を超えるだろう。医療センターは本土を含め、救急の受け入れを断ったことは一度もない。ドクターヘリは病院を1つ造ることを考えれば安い。万全の支援体制を整えず、徒手空拳でへき地に行けとは言えない」

「搬送ルートと手段さえきちんと用意しておけば、医師過疎地の住民も安心できる。お産も同じ。年10人しか生まれない小さな島に産科医を置くことはできないが、ヘリが30分で飛んでくる安心感があれば、パニックにならない」

医療体制を支える仕組みには、県離島・へき地支援センターや、県と五島市の寄付講座として開設された長崎大離島医療研究所もある。

支援センターは、57カ所に上る公設離島診療所の医師派遣や代診応援などの後ろ盾になる。福江島にある研究所には医学部の教官2人が常駐し、医学部5年生の必修にしている離島実習の指導も担当する。

こうした取り組みは、医療現場の評価が高い。組合運営の上五島病院(新上五島町)で院長を務める八坂貴宏さん(44)は、義務期間後も島に残った。「養成、研修、支援を非常にうまくやってくれる。島で自分のやりたい医療が自信を持ってできる」と語る。

「全国の病院では、大学の医局人事が複雑に絡んでいる。行政が調整しようとしても不可能。医局長が握る人事権は特定の病院、診療科に限定され、地域全体の動向を見渡す人がいない。これが日本の医療の最悪なところ。自前で医師を養成し、その医師が報われる医療システムをつくる。それが、地域医療を守る一番の根幹だ」