2004.12.01
病院会計準則改正の影響と問題点
病院会計準則改正の影響と問題点
東日本税理士法人 税理士 安松 奈穂
病院会計準則改正の経緯
病院会計準則は、病院の経営成績と財政状態を適正に把握し、病院経営の改善向上に資することを目的に昭和40年に制定された。今回の大改正に至った経緯としては、
(1) 前回の昭和58年の改正から20年を経過し、医療を取り巻く環境が大きく変化していること
(2) 医療法人の事業運営が多様化し、「医療法人会計基準」の制定が必要となったこと
(3) 外部関係者に対する情報公開機能を加味する必要性が高まったこと
(4) 企業会計の国際会計基準との調和化をはかる目的
等があげられる。
主な改正点と医療機関に与える影響
今回の主な改正点の見直しの方向性としては、基準を企業会計に近づけ、開設主体の異なる病院の経営状況を相互に比較し得るようにすることである。よって、企業会計原則の影響を大きく受けたかたちになっている。
まず第一に、退職給付会計の導入である。これは、改正前の時点で退職給付会計を取り入れていない病院等、特に公的病院等にとっては死活問題ともいえる。なぜならば、公的病院等の中には人件費が70%近いところもあり、退職給付会計を適用して多額の引当金を計上することになれば、現状でも赤字体制で批判を浴びているところにさらに追い打ちをかけられることになる。そうなれば、病院地方債の起債事前協議が不調になったり、金融機関からの融資にも影響が出るなど財政的にたちゆかなくなる恐れがあるからである。
第二に、キャッシュフロー計算書の導入である。キャッシュフロー計算書が導入されれば、病院の資金繰りが明るみにでることになる。改正前でも独自でキャッシュフロー計算書を作成し経営状態の把握に役立てているところもあるであろうが、財務諸表の一部となれば、金融機関から融資を受ける際に判断材料の一部になることは間違いない。
第三に、リース会計の導入である。リース会計を導入すれば、リース物件を資産・負債の両方に計上することになるが、それによって自己資本割合が低下することになる。医療法人で、例えば他らしく病院や老人保健施設を開設しようとする場合「自己資本比率20%以上を有していること」を条件とされる場合があり、自己資本比率が悪化するとそのような事業計画にも影響を及ぼしかねない。
なぜ、公表が遅れたのか?
当初平成16年度から実施される予定であった改正病院会計準則であるが、厚生労働局長の通 知が出たのが平成16年8月19日と大幅に遅れた。通常であれば平成15年度中にパブリックコメントの期間を経て公表されるべきにもかかわらず、こんなにも遅れてしまったのはなぜか?
それは、やはり医療業界に与える影響が極めて大きく、短期間に対応することが著しく困難であり、多数ある解説主体を規制する法の整備も前提となるからに他ならない。そもそも公的病院等は開設主体ごとに独自の会計基準を適用している。しかし今回の改正により、突然民間企業並みの会計処理を要求されてしまうわけで、先にあげたような問題、とりわけ退職給付会計は今後の病院経営に重大な影響を与えることは必至である。
制定過程の欠陥
昭和58年の準則改正における大きな目的は「発生主義への転換」にあったといえるが、それは準則を適用しなくても転換を行うことは可能であるため、事務を複雑化させることなく発生主義を取り入れる医療法人が多かった。また、旧厚生省も「事務の簡素化及び効率化を図る観点から」決算届の様式を簡略化したものに改めた。
しかしながら、今回の改正では一転して相当に複雑な処理をしなければならなくなった。これは先に述べた改正の目的である。「情報公開」と「開設主体間の比較可能性の確保」を達成するためである。そのためには、全ての病院が横並びに同じ会計処理をすることが必須となりその数字の正確性も要求されることになる。
まず法律自体の中に基本的な財務書類の作成についての条項が盛り込まれ、省令によって具体的な内容を示すという方法をとるのが通 常であるが、病院会計準則の医療法での位置付けは「原則として」病院会計準則にもとづき財務書類を作成するという程度であって、強制力はない。情報公開や比較可能性の確保という目的を達するためには、少なくとも準則を医療法施行規則に位 置させて商法並みの罰則を設け、大規模病院は監査の導入などで内容の正確性を担保しなければならないだろう。
任意適用にこだわる理由は?
もし準則の改正目的である「開設主体間の経営状況の比較可能性」を担保しようとするならば、全ての病院に対して強制適用でないと意味がない。しかしながら改正準則は任意適用となった。これは、先にあげたような病院経営自体に重大な影響を及ぼすことを考慮したことによる妥協であると思われる。また、民間病院にとっては「誰に向かっての情報開示か?」という部分が明確になっていないということもあるであろう。改正病院会計準則を民間病院に普及させるためには、情報開示による有用性を見出す必要があるといえる。
改正病院会計準則の活用方法
改正病院会計準則が任意適用となった以上、適用しなくともまったく問題はないし、会計処理の複雑化も免れる。しかし、改正病院会計準則を適用することによるメリットも考えられる。
一つは、今話題となっている病院債の発行である。もし病院債を発行しようとするならば格付機関による格付けを受ける必要があるが、そのためには企業会計と同レベルの会計処理をしなければならず、医療機関としては病院会計準則に則った決算書類が必要となってくるからだ。
もう一つは、今後の医療法改正で盛り込まれるであろう大規模病院の監査の義務化である。もし監査が義務化されれば、病院会計準則に則った会計処理が実質的に強制されることになる。その準備段階として、できるだけ早期に病院会計準則を適用し監査の義務化に備えるとともに、病院の経営実態の把握、改善向上といった経営管理に役立てていくことは大きな意味があるといえるだろう。

