1999.07.15
論点 介護充実へ病院債整備
介護充実へ病院債整備
長 隆
讀賣新聞「論点」1999年7月15日掲載
四十歳以上の人から月額三千円程度の保険料を徴収する四番目の社会保険制度である、公的介護保険制度が二〇〇〇年度から始まる。同時に住宅サービス、施設サービスも実施される。日本の高齢者の住居は、在宅の千五百八十五万人と、施設の百五万人に分かれる。在宅で何らかの介助を必要とする人は八十四万人である。施設にいる百五万人は有料老人ホームの二万人、老人福祉施設の二十七万人、老人保健施設の七万人、及び病院・診療所の六十九万人となっている。病院が60%強の施設サービスを担うことが今後、重要視されなければならない。
施設の整備の必要性と資金需要の巨額さに資金供給のミスマッチが著しい。六十九万床の施設更新には最低でも七兆円以上の資金供給が必要である。今年度を目標年度とする新ゴールドプランで、特別養護老人ホームなどの老人福祉施設の増設目標が掲げられているが、都市部では地価が相変わらず高いこと、採算性が悪いこと、資金調達の困難さから、予定通りは難しい。中小病院の病床「療養型病床群」が介護保険の中心となり、圧倒的多数の施設サービスの役割を担うこととなる。中小病院の側にあっても介護保険制度への対応、生き残り策として比較的条件が緩やかな改造を来年三月末までに実施するところが多い。施設内容の悪い施設にやむを得ず移行する病院が49.1%であっては、要介護者をかえって増加させるのではないかという批判も理解できる。
国民の期待する完全療養型に移行するためには、建て替えが必要である。現在の病院の隣地に建て替え用地を確保でき、金融機関からの融資が受けられることが条件となるが、無理である。年間利益が五億円以上出ている病院でも都市銀行は融資に応じていない、といわれる。建て替え更新の時期は迫っているのに、社会福祉医療事業団の融資だけでは不可能である。老朽化設備を改修したくとも資金調達がきわめて困難である。驚くべきことだが、診療報酬の中に声なき弱者たる患者のささやか願いともいえる良的環境の維持の設備投資についての減価償却費相当が認められていない。
金融機関が設備投資資金の返済財源に確証が得られないゆえんである。長期安定資金としての社債、優先株に転換可能な病院債などの債券市場の育成が期待される。今回、石原都知事が中小企業やベンチャー向けの債券市場を東京に作る公約を掲げた点に注目し、高く評価したい。株式会社の社債発行については、九十三年の商法改正で、社債発行額の上限規制廃止、「社債管理会社」の設置など大改正が行われた。しかし、原則として上場会社を対象とし、中小企業は利用困難であった。東京都が債券市場を育成する場合、保証制度や社債管理会社の支援をすることになろう。
現行法でも、有限会社や医療法人の発行する債券も商法が予定する社債契約と同一、又は類似の内容を持つ契約をなすことはできる。
医療法上、限度内であれば医療法人は病院債を発行できる。利息の支払が医療法人の配当禁止規定に触れるのではないかとする論もあるが、社債が株式と類似している資金調達であっても違反ではない。しかし、出資法に抵触しないよう不特定かつ五十人を超える人からの資金の受け入れは、当面できないことになっているから流通性は難しい。これは広く普及している学校債と同じ扱いである。
医療法人について市場性ある社債(病院債)の発行が認められる見込みが出てきた。流通市場が東京都や社会福祉医療事業団などの協力得て整備されることが期待される。
一億円以上の大口や五十口未満の起債について東京都や審査能力の優れている社会福祉医療事業団が保証する制度が現実的といえる。債権購入者に不測の事態が起きないよう、また、購入しやすいように、発行病院は社会的責任を自覚し、・財務内容の公開・外部監査の受け入れ・二千床以上の規模となるよう中小病院が共同して起債することなどが考えられてよい。
特定医療法人などは非同族経営で資本の論理が排除されているので、投資リスクがほとんどなく優先的に起債可能となろう。投資家にとっても病院は倒産の割合が最も少ない業種であり、確定利息が電力債以上に有利となるなら魅力的な債券市場として発展していくだろう。

