2004.08.27
特定医療法人の「自主的取りやめ」の課税リスク
日本医療情報センター「メディカルマネジメント」(9月号)
特定医療法人の「自主的取りやめ」の課税リスク
東日本税理士法人
長 英一郎
(株)日本医療情報センター「メディカルマネジメント」2004年9月号p4掲載掲載
国税庁長官から東日本税理士法人に対する行政文書開示決定通知書によれば、03年4月1日以後一年間で全国において14件の特定医療法人の承認取りやめがなされた。14件の内訳は東京国税局10件、大阪国税局1件、広島国税局1件、福岡国税局2件である。ただし、14件のうち7件については特定医療法人が自主的に取りやめたものではなく、承認取り消し事由が存在するため、国税庁が特定医療法人に取りやめを求めたものである。
以下、便宜上、特定医療法人自ら取りやめた場合を「自主的取りやめ」とし、国税庁が特定医療法人に取りやめを求めた上での取りやめを「強制的取りやめ」とする。国税庁の承認取り消しは「取り消し」とする。
安易な「自主的取りやめ」により、予期せぬ課税が生じる可能性がある。財務省主税局の見解も踏まえ、取りやめの課税リスクについて述べてみたい。
取りやめは都市部に集中
取りやめた特定医療法人の多くは都市部の医療法人であり、差額ベッド規制や社会保険診療収入割合規制を満たさなくなったため、取りやめざるを得なくなったと推定される。役員報酬3,600万円の上限規制や役員の親族制限を回避することも取りやめの動機として考えられる。
「持分あり」には戻れず
租税特別措置法施行令第39条の25第6項後段によれば、「法人税率の特例の適用の取りやめの届出書」の提出の日以後に終了する各事業年度の所得については、租税特別措置法第67条の2第1項の効力(法人税の軽減税率の適用)が失われるとしている。
ただし、医療法施行規則第30条の36第3項によると、持分の定めのない社団医療法人は持分の定めのある社団医療法人へと移行できないとされる。つまり、特定医療法人の承認を取りやめた場合、法人税率の優遇措置は失われるが、出資持分に係る相続税の非課税は継続されるというわけである。 ただし、特定医療法人が「自主的取りやめ」をし、取りやめの理由について国税庁が同意しない場合には、「取り消し」がなされる。また、定期提出書類の国税局の審査で、特定医療法人の承認要件を満たさないことが判明し、是正されない場合には「強制的取りやめ」がなされる。
「取り消し」又は「強制的取りやめ」がなされた場合、法人税の軽減税率の不適用のみならず、特定医療法人移行時の・清算所得課税、みなし配当所得課税・贈与税等も生じると考えられる。
承認時にさかのぼって清算所得等が課税
「租税特別措置法第67条の2の適用を受けるための社団たる医療法人の組織変更について」の覚書によれば、「組織の変更については、既往の出資持分の定めのある社団たる医療法人について清算の手続きをなすべきものであるが、その変更後の医療法人(特定医療法人)が租税特別措置法第40条及び第67条の2の承認を受ける各要件に該当しているものに限り、定款の変更の方法によることを認める。」とされている。
すなわち、特定医療法人が承認後に承認要件を満たさなくなった場合には、定款の変更の方法は認められず、清算の手続きをなすべきことになる。特定医療法人への組織の変更が清算の手続きにあたる場合、清算所得課税(法人税法92条、法人税法93条)、みなし配当所得としての所得税が課される(所得税法第25条1項5号)と考えられる。
不当目的の移行には贈与税も
相続税法66条第4項によれば、公益を目的とする事業を行う法人に対し財産の贈与又は遺贈があった場合において、相続税又は贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められる場合については、財産の贈与又は遺贈に係る贈与税が法人に課税される。
つまり、特定医療法人承認前から相続税負担の不当な減少を目的として特定医療法人の承認を受けた医療法人については、贈与税が課せられるものと考える。
税務上の時効は7年
「取り消し」又は「強制的取りやめ」がなされた場合、いつまで遡って課税されるであろうか。特定医療法人制度は税法上の制度であるから、七年を越えて遡ることはない(国税通則法第73条3項)。財務省主税局の公式見解
財務省主税局によれば、相続税を不当に回避することを目的として特定医療法人へ移行した場合には、さかのぼって法人税のみならず、移行時の譲渡所得税、贈与税、清算所得税についても課税されるとしている。
また、現在、財務省主税局では厚生労働省に悪質な租税回避をした特定医療法人に対し、医療法上のペナルティーを設けるように要請している。一旦、特定医療法人の承認を受けた場合には10年間取りやめできないといった規制が新設されることも考えられる。
「自主的取りやめ」の合理的な理由は
それでは「自主的取りやめ」を行う合理的な理由は存在するのであろうか。公益性を放棄するような理由は国税庁には是認されず、さかのぼって課税される可能性が高い。業績向上に伴う役員報酬の引き上げや、親族支配の強化などの理由は公益性という観点からは合理的な理由として認められないと考えられる。
合理的な理由の一つとして「定期提出書類作成の事務負担が過重になったため」ということが考えられよう。連結納税の取りやめの承認事由の例として、連結納税の適用を継続することにより事務負担が著しく過重になると認められる場合が挙げられているからである(連結納税基本通達1-3-6)。
安易な取りやめは危険
安易な「自主的取りやめ」により、法人税のみならず予期せぬ課税が生じ、かえって医療法人の継続性を確保できないといった事態にも陥りかねない。「自主的取りやめ」は課税上のリスクを考慮した上での活用が望まれる。
参考文献
長隆、坂田茂:特定医療法人のすべて(中央経済社、2004.4)

