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2005.05.23

医療法人社団の非営利性についての再考

2005年(平成17年)5月20日(金)Japan Medicine

寄稿
医療法人社団の非営利性についての再考 上
「出資額限度法人」を読み解く
弁護士 堀 克巳(深沢綜合法律事務所)

 規制緩和の波を受けて、ここ数年、株式会社による病院経営に門戸を開くかどうか、種々の議論がなされている。賛成・反対の各論陣からメリット・デメリットが主張されてきた中で、反対派の理論的根拠として、医療法人社団(以下、単に医療法人という)の非営利性と株式会社の営利性は相いれない、ということが強調されてきた。しかし、医療法人の非営利性に疑問を呈する声が出てきた。確かに、医療法人は、医療法54条で剰余金の配当を禁止しているので、出資して社員になっても配当という利益を享受することはできない。
  しかし、ここで注目されてきたのが、出資者が退社した際の出資持ち分の払戻しと同法56条で規定されている解散した医療法人の残余財産の帰属規定である。これらの点について、厚生労働省のモデル定款では、「社員資格を喪失した者はその出資額に応じて払戻しを請求することができる」「本社団が解散した場合の残余財産は、払込済出資額に応じて分配するものとする」という規定が示され、大多数の医療法人がこのモデル定款そのもの、あるいはこれに準じた定款によって運営されている。
  そこで、剰余金の配当が禁止されていても、この2つの局面で長年蓄積されてきた内部留保が出資者に還元されるのであるから、医療法人の非営利性は不十分であって、株式会社による病院経営参入を阻止するに十分な論拠とならないのでは、といった指摘である。
  このような議論がなされている中で、厚労省は、2004年8月、各都道府県知事に対して「いわゆる『出資額限度法人』について」を通知した。この通知で定義されている「出資額限度法人」とは「出資持分のある社団医療法人であって、その定款において、社員の退社時における出資持分払戻請求権や解散時における残余財産分配請求権の法人の財産に及ぶ範囲について、払戻出資額を限度とすることを明らかにしたものをいう」とされている。すなわち、定款によって、出資額限度法人の要件を満たせば、医療法人の剰余金は、設立から解散に至るまで、一切出資者に還元されることがなく、医療法人の非営利性が完遂される、ということであろう。
  厚労省では、医療法人の非営利性確保のために、持ち分ありの医療法人をすべて「出資額限度法人」に移行させる案が検討されているようであるが、果たしてその必要があるのだろうか。
  これまで、出資額限度法人については、税務面から種々の議論がなされてきたが、ここでは、法的側面からあらためて出資額限度法人を検証してみることにする。
  医療法人は、医療法によって設立される法人であるが、医療法68条で多くの規定を準用しているように、その基本は、民法の公益法人の規定にある。民法の公益法人は、公益目的の追求のほか、非営利性の枠によって限定されるとされており、医療法54条で剰余金の分配を禁止しているのは、まさにこの非営利を明らかにしているのである。ところが、民法72条1項では、「解散した法人の財産は、定款または寄附行為で指定した者に帰属する」ことを原則とし、医療法56条もこの規定を受けている。民法72条1項が、公益法人の非営利性と矛盾するのではないか、と立法時に議論されたが、「法人の出資者は私財を公益目的のために出捐したものであるから、法人の存続中にこれを公益の用に供するのは当然であるが、法人がいったん解散して公益事業を廃止するに際しては、できる限り財産の旧所有者である設立者の意思によってこれを処分させることとするのが妥当だからであり、そうしたからといって、法人の公益性が害されるわけではない」と説明された。
  そうであるならば、医療法人についても、解散時の残余財産を出資持ち分に応じて出資者に分配しても、すでに公益目的が終了したのであるから、非営利性の障害としてことさら論じる必要はないと考えられる。この点は、出資者が出資者でなくなった場合も同様に考えてよいのではないだろうか。
  このように考えると、出資額限度法人は、医療法人に非営利性からではなく、永続性および継続性の側面から理解すれば足りるはずである。厚生省のモデル定款を批判する見解も散見されるが、民法・医療法の規定に沿ったものであり、かえって非営利性を強調して出資者の財産権を侵害する方向を進める議論の方が危険である。

2005年(平成17年)5月23日 Japan Medicine

寄稿
医療法人社団の非営利性についての再考 下
出資限度額法人への移行
弁護士 堀 克巳(深沢綜合法律事務所)

 株式会社による病院経営参入について議論される中で、医療法人社団(以下、単に医療法人という)の非営利性について、改めて考える時期がきた。
  医療法人は、剰余金の分配を禁止する医療法54条の規定から、当然に非営利法人と考えられていた。しかし、厚生労働省モデル定款の「社員資格を喪失した者はその出資額に応じて払戻しを請求することができる」「本社団が解散した場合の残余財産は、払込済出資額に応じて分配するものとする」という規定に対して、非営利性を徹底していないと批判され、厚労省も動き始めた。
  厚労省は、2004年8月、各都道府県知事に対して「いわゆる『出資額限度法人』について」を通知した。その上で、医療法人の非営利性確保のために、持ち分ありの医療法人をすべて出資額限度法人に移行させる案が検討されている。
  厚労省のこの通知では、出資額限度法人を「出資持ち分のある社団医療法人であって、その定款において、社員の退社時における出資持ち分払戻請求権や解散時における残余財産分配請求権の法人の財産に及ぶ範囲について、払戻出資額を限度とすることを明らかにしたものをいう」としているが、法制度ではなく定款の規定に基づく医療法人の一形態である。したがって、出資額限度法人を選択するかどうかは医療法人の社員の意思に任されている。
  定款変更は、各医療法人の定款の規定に基づいて多数決で行われる。なお厚生省モデル定款では、定款変更の要件として「社員の3分の2以上が出席し、その3分の2以上の同意を要する」とされている。
  このように、定款変更で出資額限度法人への移行が可能であるが、同意しない社員の財産権を多数決で奪うことができるだろうか。出資額限度法人への定款変更は、全社員の同意がなければ憲法違反にある、という指摘もなされている。しかし、社員は定款の規定に従うことを前提に出資しており、将来定款の規定変更されることも了解している。解散ですら社員全員一致は要件とされていないのだから、多数決による出資額限度法人への定款変更を憲法違反と論じるのは早計である。もちろん社員全員の同意があることが望ましく、反対の社員については出資持ち分を払い戻して退社できる道を残すべきであろう。
  それでは、厚労省が医療法人の非営利性を確保するために行政指導に止まらず、医療法を改正して全医療法人を出資額限度法人としてしまう、といった議論までなされているが、問題ないだろうか。社員の意思に基づく定款変更ではなく、国家権力によってこれを強制することは、憲法違反の指摘を免れないであろう。
  医療法人制度が創設されて50年以上経過し、出資金の帰趨(きすう)については定款の規定に委ねられ、税制面でも出資金を財産権として評価することが定着している。医療法人の出資は、憲法29条で保障されている財産権に含まれ、医療法の改正や行政指導で全医療法人を出資額限塵法人としてしまうことは、財産権を国家が奪うことになり、憲法違反と考えられる。
  憲法29条2項は、財産権は公共の福祉に適合するように法律でこれを定める、としているが、医療法人制度創設時に医療法人を出資額限度法人と定義するのであれば格別、すでに設立認可されている医療法人の社員の財産権を奪うことまで許されるものではない。
  社員が医療法人の公益性・非営利性という規制を受けるのは、あくまで医療法人の存続中であり、かつ社員資格を有していることに基づくと考えれば、出資持ち分がなかったり出資限度法人でなければ、医療法人の公益性・非営利性が確保されない、という考えに拘泥される必要はないはずである。従来の医療法人も、決して公益性・営利性を十分充たしている、改めて考えることはできないだろうか。
  なお、厚労省は、出資額限度法人へ定款変更した後に、従前の定款に戻すこと(後戻り)は、非営利性の確保のために期待される方向に照らし適当でない、としている。
  しかし、定款変更の認可は、法令または定款に違反していなければこれを拒むことはできない(医療法50条2項)。この点は、定款そのもので後戻りを禁止する規定を設けても、規定自体の変更ができるので意味のないことである。出資額限度法人について、厚労省め定義を充たさない定款や後戻りを行うことを規制できるのは、税制面での措置だけと考えるべきである。